Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

   BMP7314.gif 小っちゃな勇者の大冒険 BMP7314.gif 〜チョッパーBD記念
 



          




 ゾロが追っかけたのは結構凶暴だったらしい大きなヘラジカの一種で。どっちが追ったのやら判らない鬼ごっこの末に倒して来たのを、サンジが手際よく捌き、焼きたてのはちみつパンとコーンのスープ、豆の水煮とソーセージをチリソースとケチャップで煮詰めたおかずと鹿肉のソテーという御馳走を皆で平らげて、さて。

  「何じゃ、この化けもんはっ!」
  「怖いんだったら下がってな、コックさんよっ。」
  「何を、このクソマリモがっ!」
  「二人とも、向かい合う相手が違うったら〜〜〜っ!」

 翌日からもまた、やっぱり禍々しい魔物は多数出没したけれど、シェフのサンジさんもそれなりの腕っ節…というか、素晴らしいまでの蹴技の持ち主だったため、旅程は昨日の倍のペースにてわしわしと進んだ。サンジさん曰く、料理人というのは腕っ節が強くて体力がなけりゃあ、なかなか勤まらない職業なんだそうで。朝ご飯には、2種類のチーズに厳選ベーコンとグリーンアスパラをのせたピザトーストと、イタリアンドレッシングを振ったルッコラのサラダ。お昼ご飯には、野菜をたっぷり練り込んだチヂミとかいう小麦粉の焼き物と、魔物のオプションとして襲い掛かって来た大イノシシをゾロさんが仕留めたのを使った、ポークジンジャーの暴れ食い…といった具合で。戦いにも食べ物にも困らぬ道中は、やっぱりわしわし進んで、気がつけば。ほんの数日ほどで、北の端っこの辺境地にまで楽勝で到達しており。
「凄げぇ〜〜〜、もう着いたっ!」
 こんなにも手際よく進もうとは思わなかったらしきチョッパーは、素直に感動していたけれど、
「…気がつかなかったか?」
「ああ?」
 お供のお兄さんズたちはと言えば、
「途中で旅人らしい人影に全くすれ違わなかったろうがよ。」
「ああ、それか。」
 何かしら、きな臭いものを感じておられたご様子で。
「いくら冬籠もりの前で、しかも北方だとはいえ。南へ向かう旅人までいないってのは訝
おかしいだろうがよ。」
 ゾロがそんな風に言い立てるのへ、長く伸ばした金の前髪の陰にて、紙巻き煙草へと火を点けながら、
「ほほぉ。方向音痴のお前さんでも、それに気が付けたとはねぇ。」
「…うっせぇよっ。////////
 ほんの数日の同行ででさえ、あっさりと暴露されちゃった、頼もしき剣士さんの救いようのない欠陥がそれであり、
「ほんの目と鼻の先の泉まで水を汲んで来るのでさえ、とんでもない方向へ“戻ろう”としやがった奴ですからねぇ。」
 あれは呆れた、チョッパーが鼻の利く奴でなきゃあ、何度ほど見失ったことやら知れやしないと。にんまり笑って肩をすくめたサンジだったが、

  「同じ匂いがしてないか?」
  「匂い?」
  「ああ。」

 料理人ならではの言い方であったらしく、
「俺らが封印された時の感覚に似ている、あの匂いだよ。」
「あ…。」
 そうと言われれば、思いつくものが…緑頭の剣士さんにもあるらしく。
「じゃあ、もしかしてこれって。」
「ああ。あの美人の神官様が、非力な旅人が魔物に襲われないようにって配慮をなさって。俺らの旅の間は、部外者が街道へ出て来れねぇような暗示か何かをかけていなさるのかも。」
 こんな遠くにまで及ぶほどもの力があるんなら、いっそ魔王退治とやらも自分でやっつけちまや良いのによ。何をぅ? あんなお綺麗な女性にそんな野蛮で危険なことをさせようってのか、お前はよ、と。寄ると触ると喧嘩になっちゃう、妙な相性のお二人なので。そこまでの会話は聞いてなかったトナカイさん、
“こういうタイミングへ魔物が出て来てくれたら良いのにね。”
 やれやれだよなと、お兄さんたちの気も知らず、こちらはこちらで暢気な想いを胸の裡
うちへと転がしていたりするのでありました。








            ◇



 さてさて。やっとのことで辿り着いたる北の辺境。辺境なんて呼び方をしてはおりますが、ここもそれなりの発達はしており。手入れの行き届いた畑や牧場が広がり、丘の上から望める海には、漁船だろうか船の群れも幾つか浮かんでいたりするから、
「…なんか、とっても安泰で平和って感じしかしないんだけれど。」
 何よりも、畑に出ている人々の姿が見える。魔王が暴れて迷惑しているというのなら、皆して家へと閉じ込もり、関わり合いのなきようにとビクビク怯えて過ごすものではなかろうか。なのになのに、畑の土を耕して掻き回し、来年の春への準備に余念がない人たちは、至って普通に働いていらっしゃり、
「おーい、おーい、そこの人ー。」
 チョッパーが大きなお声で呼ばわりながら、畦に注意しつつ駆け寄ってゆけば、
「おやおや珍しいねぇ。旅のお方だ。」
「本当だねぇ。何カ月振りだろうか。」
 のほのほ、のんびりとしたお声が返って来るほどであり。これのどこが、魔王に襲われている土地の方々の雰囲気なのやら。ますますもって奇妙な空気であり、
「あのあの…。此処には魔王が現れて、皆さんを困らせていると聞いたのですが。」
 それでもわざわざ、じかにと訊いてみると、
「はい? 何ですと?」
「魔王っていうと…怪物とか魔物の王様でしょうかの?」
 村人たちは顔を見合わせ、
「そんなもんには覚えがありませんがの。」
 小首を傾げて見せるばかり。でもあのね? 此処までの街道には、それは凶暴な魚人たちがたむろしていた。倒した端から頑丈な鎖で樹の根元や岩に縛りつけ、ロビンさんから預かって来た封印のお札を貼っておいたので、後から追って来る段取りの役人たちが、残らず回収してくれる手筈になっている。そいつらがやって来たのは間違いなく、その街道の始まりの地点であり、海とも接しているこの村のはずで。それを懇々と説明すると、
「…ああ、そいつらだったら。」
 やっとこ話が通じたか、村人たちもポンと手を打ち、
「あすこに…木立の向こうに古いお城が見えるじゃろう?」
「少し前までは、魔物がたくさん巣食っていたんだがね。」
 一様に同じ方向を指さして見せ、そんなとんでもないことを話して下さり、
「とんでもない乱暴な奴らで、わしらもそりゃあ迷惑させられていたもんじゃが。」
 ほらご覧と、やっとのことでの手ごたえを感じ、
「どうもありがとう。そいつらは俺たちが退治してやるからね。」
 もうもう、怖い思いをしなくてもいいからねと。勇んで駆けてった討伐隊の皆々様だったのだけれど、
「いや、あの…。」
「人の話をちゃんと聞かない人たちだねぇ。」
 取り残された村の人たちは、唖然呆然と立ち尽くす。
「ナミさんへ知らせんでも良いのかねぇ。」
「まあ、大丈夫じゃなかろうかねぇ。」
 あん人たちはすこぶる強いから、まま落ち着けと宥めてしまうのもお上手だろうよと、大したこっちゃないと言いたげに笑って、それもそうじゃなと他の方々も残らず同意し、再びの畑仕事に戻られたのであった。………って、あれれぇ?





 乾いた街道から続くは、少し幅の狭まった農道らしき土の道。荷馬車の轍も幾つか残る、素朴な道を駆け抜ければ、やがては…垣根代わりだろうか、いやに背のある椿の茂みが片側に続く道へと出。そこを更に進めば、潮風に錆びついた鉄の門扉も侘しい佇まいの、ちょっとした富豪の海辺の別邸のような、小じんまりとした城の前庭へと辿り着く。ここもやはりろくな手入れもしていないせいでか、前庭もまた草ぼうぼうの荒れ放題だったが、何故だかその一角には…妙に真新しくも大きめの温室があって。その中だけは治外法権なのか、すっきりと綺麗な緑が、生き生きと育っているのが伺えて。
「…柑橘類だな。」
 葉っぱで判るところがさすがはシェフ殿。チョッパーも青いお鼻をクンクンとさせて、
「これはみかんだよ? イーストブルーの和国が原産で、小ぶりで食べやすいからってグランドラインにも入って来てるけど…。」
 こんな風に栽培してるのは初めて見たと、丈夫そうなビニールが張られた温室へと近づけば、

  「こらっっ! 勝手に入って来て何してんのよ、あんたたちっ!」

 いきなりの鋭い声が降って来たから、一同びっくり。どこからの声だと見回せば、高みから飛び降りて来た気配があって、傍らにあった崩れ掛けの建物の上に立っていたらしい人影が、不法侵入者である彼らを見とがめて降りて来たらしく、
「そこはあたしの温室よっ。みかんに手ぇ出したら容赦しないんだからねっ!」
 すっくと立ったは、それは凛々しくも強腰の…女性が一人。さすがに寒風吹き初めている頃合いだからか、上へは襟元や袖口にファーのついたジャケットを羽織っていたものの、下のボトムは膝どころか太ももまで半分ほど丸出しという、危険ゾーン露出度の高いことはなはだしい、悩殺マイクロミニスカート姿のうら若き女の人であり。短くした髪といい、大きく見張られた凛とした瞳といい、いかにも闊達そうな勇ましい女傑という感たっぷりで。
「これがお前の持ち物だということは。お前がこの古城に巣食う魔王だってのか?」
 しゃりんと既に、腰の刀を抜いていたゾロが問えば、
「はあ?」
 険しくも眉を寄せたその女性。手慣れた所作にて抜かれた刀に怖じけないところが、やはり只者ではないらしく、
「あんたたちがどんな想像を抱えて来たのかは知らないけれど、無断で上がり込むような人を真っ当な客と見なす訳には行かないわ。」
 そうときっぱり言い放ち、スカートの下から取り出したるは…短いスティックが3本。それをあっと言う間につないでの三節棍に仕立て上げ、ぶんっと振っての下段の構えを取ってから、

  《 大地に流れる龍の気よ、母なる生気のその源よ。》

 特殊な音律にて呪文らしき文言を呟き始めたから、剣を構えたゾロがハッとする。
「しまった、こいつは龍の気の魔女だっ。」
「何だってっ!」
 大地の恵み、様々に交錯する生き物たちの生気や気候や地熱や風に海流にと、そういったエナジーの織り成す流れを読み取り、練って凝縮させたり、その先にいるだろう生き物やら魔物やらを召喚したりが出来るという、奇跡の魔法使いのことで、
「ゾロでも倒せないのか?」
「う〜〜〜。」
 そんな甘い信条はないと思っているらしきゾロではあるが、やっぱり女性へは刃を向けがたいらしく、しかもまだ何かしらの凶悪さを見せられてはいない相手。此処までの彼女の言動は、むしろ向こうに正当なことばかりでもあって
(おいおい)、向けた剣の切っ先だって鈍ってしまうというものかも。敵には違いなさそうながら、でもでも何だか…手出ししにくい。どうしたものかと躊躇ためらうばかりのこっち陣営であったのだが、そんな緊迫感を打ち破ったのが、

  「ん・なんて魅惑的なレディなんだろうかvv」

 ………はい? 今、誰か、何か仰せになりましたか? いやな予感を抱えつつ、そろ〜りと振り返った自軍勢の双璧の片割れ。金髪痩躯のシェフ殿の、青いはずだったお目々が…今や、ピンクのハートに様変わりしており。
「そんな挑発的な態度もまた、セクシーでお素敵ですったらvv」
 例の袋へ手をやると、中から取り出したは綺麗なグラスへと盛られたカラフルなベリーの盛り合わせ、オン・ザ・ムースであり、
「その美しさへ乾杯させて下さいませな、マドモアゼル。」
「…何よ、この人。」
 制す間もあらばこそ。それはなめらかに歩み寄り、片膝ついてデザートを捧げるシェフ殿を…怪訝そうに指さして見せ、こっちへと説明を求むという顔をなさったみかん色の髪の女性だったが、
「あーっと、うーっと…。」
「単なる女好きだ。」
 気にするなと、ど〜んと応じたゾロもゾロだ。
(笑)
「ちょ…気にするなじゃないでしょうが。」
 ハート目のままににじり寄られ、呪文の詠唱も中途半端なまま逃げ腰になってしまったお姉さん。
「ヤだったら、寄らないでっ!」
 あたしはこれでも此処の番人で、修行を積んだ徳の高い導師なのよっと。叫びながらも…迫力負けしたか、とうとう背を向けて逃げ出したのを、
「あ、お待ち下さいっ、マドモアゼルっvv
 負けじと追うは金髪のシェフ殿で。

  「…どうしようか、ゾロ。」
  「放っとけ、あんな野郎。」

 いっそせいせいしたと言わんばかり、そこまで見切るかと思わせるほどに きりりと表情を鋭くも引き締めて。
「さあ、俺らは総本山へと乗り込むぞ。」
「あ、おおお、おうっ!」
 二人が見上げたは、古城の本館。ここにこそ、今回の遠征討伐隊の目指す敵の総大将、ラスボスがいるのだから…と。







←BACKTOPNEXT→***